「昨日まで普通に動いていたモーターが、朝来たら止まっていた」——回転機の突然故障で、いちばん多い犯人がベアリング(軸受)です。モーター・ポンプ・ファン・コンプレッサー、回るものには必ず入っている部品だからです。
結論から言うと、ベアリングの劣化は「振動→音→温度→電流」の順でサインを出しながら壊れていくのが一般的です。この順序を知っていれば、どのセンサーで・どの段階の異常を捕まえるかを自分で選べます。しかも入口は数千円の温度計や数万円のハンディ振動計からで構いません。
- ベアリング劣化のサインが現れる順序(振動→音→温度→電流)
- 4つの検知手段(振動・マイク・温度・電流)の特徴と使い分け
- 「人が定期的に測る」から常時監視へ進める段階的なやり方
- 費用の目安と、専門の設備診断技術者に任せるべき領域
ベアリングの故障が「突然」に見える理由
ベアリングは、内輪・外輪・転動体(玉やコロ)が転がり合う消耗部品です。潤滑不良・異物混入・過負荷などをきっかけに表面に小さな傷ができると、傷は回転のたびに叩かれて少しずつ成長し、最後は焼き付きや破損に至ります。
つまり実際には「突然」ではなく、壊れる前に何週間〜何か月もかけて劣化が進行しているのです。突然に見えるのは、その進行を誰も測っていないからです。ここが、稼働してから直す「事後保全」と、兆候を捕まえて先回りする「予知保全」の分かれ目になります。予知保全の全体像は「中小企業のための予知保全入門」で解説しています。
私ベテランの「この機械、音がいつもと違う」は立派な状態監視です。ただ、その感覚は数値で残らないので、退職と一緒に消えてしまうのが現場の悩みどころです。
劣化のサインは順番に現れる:振動→音→温度→電流
ベアリングの劣化サインには、現れる順序があります。一般論として、次の流れで進むと整理できます。
| 段階 | 現れるサイン | 人が気づけるか |
|---|---|---|
| 初期 | 振動の変化(高い周波数の微小な振動が増える) | ほぼ気づけない。センサーでしか捕まえられない |
| 中期 | 音の変化(「ゴロゴロ」「シャー」という異音) | 静かな環境なら耳や聴診棒で気づける |
| 後期 | 温度上昇(摩擦の増加で軸受部が熱くなる) | 触って「熱い」と分かる。放射温度計で測れる |
| 末期 | 電流の増加(回転の抵抗が増えモーターの負荷が上がる) | 気づいたときには故障目前のことが多い |
大事なのは、早い段階のサインほど「気づいてから壊れるまで」の猶予が長いことです。振動の変化で捕まえれば、次の定期修理日に合わせて部品を手配する余裕があります。逆に温度や電流で気づいたときは、猶予は日単位のことも珍しくありません。
4つの検知手段の特徴と使い分け
サインの順序が分かると、検知手段の性格も見えてきます。それぞれ捕まえられる段階と、設置の手間・費用が違います。
| 手段 | 捕まえられる段階 | 費用の目安 | 特徴・弱点 |
|---|---|---|---|
| ① 振動センサー | 初期〜 | ハンディ振動計は数万円程度〜、常時監視用センサーは数千円〜/点 | 最も早期に検知できる定番。軸受近くへの取り付けが必要 |
| ② マイク(音) | 中期〜 | 数千円程度〜 | 非接触で後付けが最も楽。周囲の騒音と区別する工夫が必要 |
| ③ 温度センサー | 後期〜 | 放射温度計は数千円程度、貼り付け式センサーも安価 | 安くて確実だが、気づける時期は遅め |
| ④ 電流モニタ | 後期〜末期 | クランプ式センサーで数千円〜1万円台/台 | 盤の外から被覆の上に挟むだけ。設置は楽だが検知は遅い |
「早く知りたいなら振動、安く広く網を張るなら温度と電流、配線に一切触れたくないならマイク」というのが大まかな使い分けです。私なら、止まると一番困る設備1〜2台に振動、それ以外の回転機には温度と電流で粗い網を張る構成にします。理由は、全台に振動センサーを付けると費用と設定の手間が跳ね上がる一方、温度・電流の網でも「末期の見逃し」はかなり防げるからです。
進め方:まず「人が定期的に測る」から始める
いきなり常時監視システムを入れる必要はありません。簡易診断から段階的に進めるのが、費用面でも定着の面でも堅実です。
ハンディ振動計と放射温度計で、対象設備の軸受部を月1回測って記録します。測定点に印を付け、毎回同じ位置・同じ姿勢で測るのがコツです。絶対値より「先月からの変化」を見ます。
数か月分の記録がたまると、正常時の値の範囲が見えてきます。そこで重要設備だけ振動・温度センサーを常設し、正常範囲を超えたら通知が飛ぶ仕組みにします。測定の手間がなくなり、測定間隔も月1回から常時になります。
「値が上がり始めてから何日で交換に至ったか」を記録に残すと、次からは異常検知の時点で部品手配と修理日の調整ができるようになります。ここまで来れば予知保全の入口に立てています。
常時監視の装置は、市販の振動監視サービスを使う方法と、ESP32などの小型マイコン+センサーで自作する方法があります。自作する場合のマイコンは基板がむき出しなので、油や粉じんの飛ぶ現場ではケースとセットで考えてください。ケース一体型のM5Stackシリーズを選ぶか、タカチのBCAP系や未来工業のウオルボックスといった防水防塵ボックス(800〜3,000円程度・2026年8月時点の目安)に収めるのが定番です。
費用の目安
| やり方 | 費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 簡易診断(人が月1回測る) | ハンディ振動計数万円+放射温度計数千円の初期投資のみ | まず始める全ての現場 |
| 常時監視を自作(マイコン+センサー) | 部品代1〜2万円程度/台+仕組みづくりの手間 | 電子工作ができる人がいる |
| 市販の振動監視サービス | 初期費用+月額数千円〜/測定点程度 | 手間をかけず重要設備を監視したい |
| 外注で自社向けに開発 | 数十万円〜(台数・範囲による) | 複数設備をまとめて見える化したい |
金額はあくまで概算で、設備の台数・環境・必要な機能によって大きく変わります。最初の1歩は数千円〜数万円の測定器だけで踏み出せるので、「高そうだから」と何もしないのがいちばんもったいない選択です。
正直な線引き:精密診断は専門家の領域
ここまで書いた内容は、すべて「簡易診断」——つまり正常時からの変化を捕まえて、異常の疑いに早く気づくための話です。一方で、振動の周波数を分析して「内輪の傷か、外輪か、転動体か」まで特定したり、余寿命を評価したりする精密診断は、専門の設備診断技術者の領域です。振動の理論と設備ごとの経験の両方が要る仕事で、資格制度(機械状態監視診断技術者など)もある専門職です。
私の立ち位置は、その手前の「データを自動で集めて、変化に気づける仕組みを作る」側です。簡易診断の網で異常の疑いを捕まえ、怪しい設備だけ専門家の精密診断や部品交換につなぐ。この分担が、中小の現場ではいちばん費用対効果が高いと考えています。
まとめ:順序を知れば、打ち手は選べる
- ベアリングの劣化サインは「振動→音→温度→電流」の順で現れる
- 早期に知るなら振動、安く広く網を張るなら温度・電流、非接触ならマイク
- 入口は月1回の簡易診断。傾向が見えてから重要設備を常時監視に
- 周波数分析による精密診断は専門の設備診断技術者に任せる
突然故障の多くは、測っていれば防げた故障です。まずは止まると一番困る回転機を1台選んで、来月から「同じ場所を同じ方法で測る」を始めてみてください。状態監視をもっと小さく始める考え方は、こちらの記事でも解説しています。


- 振動はどのくらいの値になったら異常ですか?
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設備の種類・大きさ・据え付け状態によって正常値が大きく違うため、一律の基準値だけで判断するのは危険です。まず自社設備の正常時の値を測って記録し、「正常時からどれだけ増えたか」の傾向で判断するのが実用的です。
- スマホのマイクや振動計アプリでも診断できますか?
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「いつもと違う」に気づく入口としては使えますが、機種ごとに感度が違い、測定位置も安定しないため、傾向管理の記録には向きません。継続して測るなら、同じ測定器で同じ場所を測る形をおすすめします。
- 古い設備でも後付けで監視できますか?
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できます。振動・温度センサーの貼り付けやクランプ式の電流測定は、設備側に通信機能がなくても使える非破壊の方法です。制御装置に手を入れないので、古い設備にこそ向いています。



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