「設備のデータを取りたくて調べると、ESP32とRaspberry Pi(ラズパイ)が出てくる。どっちを買えばいいのか分からない」——工場のIoT化を自分で始めようとした方が、最初にぶつかる疑問です。
結論から言うと、現場に置きっぱなしにする単機能の端末はESP32、画像処理やデータの集約・表示はRaspberry Piが基本の使い分けです。両者は競合ではなく、そもそも「マイコン」と「小さなパソコン」という別物だからです。
- ESP32とRaspberry Piの性格の違い(マイコンとLinuxパソコン)
- 工場の現場端末にESP32を選ぶ、私の判断基準
- Raspberry Piが力を発揮する3つの場面
- スペック・運用面の比較表と、1台あたりの費用の目安
ESP32とRaspberry Piは「マイコン」と「小さなパソコン」
まず前提です。この2つは「どちらが高性能か」で比べる関係ではありません。役割がまったく違います。
ESP32は、数百円から買えるWi-Fi・Bluetooth内蔵のマイコンです。書き込んだ1つのプログラムだけを、電源が入っている間ひたすら実行します。OS(WindowsやLinuxのような基本ソフト)はなく、画面もキーボードもつなぎません。
一方のRaspberry Piは、手のひらサイズのLinuxが動く小さなパソコンです。microSDカードにOSを入れて起動し、複数のプログラムを同時に動かせます。モニターやカメラをつなげば、そのまま表示端末や画像処理装置になります。
私の判断基準:現場端末は「電源をいきなり切られても壊れない」こと
では工場の現場に置く端末はどちらか。私の判断基準はシンプルで、「電源をいきなり切られても壊れないこと」を最優先にします。
工場の現実を思い出してください。終業時に元ブレーカーごと一括で落とす。瞬間的な停電がある。掃除のときに誰かがコンセントを抜く。現場の電源は「きれいにシャットダウンしてから切る」前提では動いていません。
Raspberry PiはmicroSDカードから起動するパソコンなので、書き込み中に電源が落ちるとSDカードのデータが壊れて起動しなくなることがあります。読み取り専用化や高耐久SDカード、小型UPS(無停電電源装置)といった対策はありますが、その分の手間と費用が積み上がります。
ESP32はプログラムを内蔵フラッシュに書き込むマイコンなので、電源を突然切っても壊れる要素がほとんどなく、通電すれば数秒で動作を再開します。消費電力も小さく、発熱も気になりません。信号を拾ってクラウドに送るだけの稼働率の測定のような仕事なら、性能も十分です。
だから私は、現場に置く端末は「単機能のマイコン」にして、集計やグラフ表示などの賢い処理はクラウド側に寄せる構成を基本にしています。理由は、現場側は電源も環境も過酷で、壊れても数千円で丸ごと交換できるほうが結局強いからです。実際、展示会向けの月面探査車デモ機でも、映像伝送と操作コマンドの同時リアルタイム処理を500円程度のESP32でこなしました。
私現場の端末に必要なのは「賢さ」より「打たれ強さ」。これが30年現場を見てきた私の実感です。
Raspberry Piが向いている3つの場面
とはいえ、Raspberry Piにしかできない仕事もあります。私がラズパイを選ぶのは次の場面です。
- 画像処理:カメラでメーターの針や表示灯を読み取るなど、映像から判定する処理はLinux上の画像処理ライブラリが使えるラズパイの独壇場です
- 複数センサーの集約(ゲートウェイ):現場に散らばった何台ものセンサー端末からデータを受け取り、まとめてクラウドへ送る中継役
- その場でのダッシュボード表示:HDMIでモニターに直結し、事務所や現場の壁にグラフを常時表示する専用端末
共通するのは「マイコンには荷が重い、パソコンの仕事」だという点です。逆に言えば、こうした仕事をさせるならラズパイの運用リスクを取る価値があります。
どちらも基板むき出し。ケースとセットで考える
忘れがちですが大事な話です。ESP32もRaspberry Piも、買ったままでは基板がむき出しです。油や粉じん、金属の切り粉が飛ぶ現場にそのまま置くと、短絡(ショート)や故障の原因になります。必ずケース(筐体)とセットで予算を考えてください。
| 対象 | ケースの選択肢 | 価格の目安 |
|---|---|---|
| ESP32 | 最初からケースに入った完成品(M5Stackシリーズ。カメラ付きはTimer Camera系)を選ぶのが手早い。ESP32-CAM用の市販ケースもAmazon等で買える | 完成品2,000〜4,000円程度/専用ケース500〜2,000円程度 |
| Raspberry Pi | 公式ケースをはじめ市販ケースが豊富。放熱用のヒートシンクやファン付きを選ぶと夏場に安心 | 1,000〜3,000円程度 |
| 現場設置(共通) | タカチ電機工業のBCAPシリーズ(透明フタならフタ越しにランプ確認や撮影が可能)や、未来工業のウオルボックス・PVKボックスなど汎用の防水防塵ボックスに丸ごと収める。モノタロウやホームセンターで入手可 | 800〜3,000円程度 |
価格はいずれも2026年8月時点の目安です。油や水しぶきのかかる場所なら、防水防塵ボックス(IP65級)に入れたうえで、ケーブルの引き込み口にケーブルグランドを付けて密閉を保つのが定石です。
比較表:スペックより「運用の性格」で見る
両者の違いを一覧にまとめます。CPUの速さではなく、工場で使うときの「運用の性格」に注目してください。
| 項目 | ESP32 | Raspberry Pi |
|---|---|---|
| 正体 | Wi-Fi内蔵マイコン | 小さなLinuxパソコン |
| 本体価格の目安 | 数百円〜2,000円程度 | 1万〜2万円台(モデルによる) |
| 起動時間 | 数秒 | 数十秒 |
| 消費電力 | 小さい(乾電池・小型電源でも可) | 常時数W(安定した電源が必要) |
| 突然の電源断 | ほぼ問題なし | SDカード破損のリスクあり |
| 得意なこと | センサー読み取り・信号検知・クラウド送信を単機能で確実に | 画像処理・複数データの集約・ダッシュボード表示 |
| 苦手なこと | 重い計算・画像判定・画面表示 | 過酷な環境への置きっぱなし運用 |
| 壊れたときの復旧 | 予備と丸ごと交換(数千円) | SD再作成や設定復元の手間がかかる |
表の下2行が、工場で使うときの分かれ目です。「置きっぱなしで何年も動き続けるか」「壊れたとき誰でも復旧できるか」——現場機器はこの2点で評価するのが、設備を30年見てきた者としての私の流儀です。
費用の目安:1台いくらで組めるか
| 構成 | 費用の目安 | 用途の例 |
|---|---|---|
| ESP32+センサー+ケース | 3,000〜8,000円程度 | 稼働検知・温度測定など単機能の現場端末 |
| Raspberry Pi+SD・電源・ケース | 15,000〜30,000円程度 | カメラ判定・複数センサーの集約・掲示板表示 |
| 2段構え(現場ESP32×数台+集約ラズパイ1台) | 3〜6万円程度〜 | 複数設備の見える化を1画面にまとめる |
金額はあくまで2026年8月時点の部品代の概算で、センサーの種類や台数、通信環境によって大きく変わります。また部品代のほかに、プログラムを作る手間(自作なら社内の時間、外注なら開発費)が別途かかる点はお忘れなく。自作と市販システムの費用の分かれ目は、こちらの記事で詳しく整理しています。


まとめ:迷ったら「現場はESP32、頭脳は上へ」
- ESP32は数百円のマイコン、Raspberry Piは小さなLinuxパソコン。優劣ではなく役割が違う
- 現場に置きっぱなしの端末は、電源断に強く安いESP32が向く場面が多い
- 画像処理・複数センサーの集約・ダッシュボード表示はRaspberry Piの出番
- どちらも基板むき出し。現場設置はケース・防水防塵ボックスとセットで
- 部品代の目安はESP32構成で3,000〜8,000円程度、ラズパイ構成で15,000〜30,000円程度
「どっちを買うか」で悩んだら、まず取りたいデータを1つに絞ってみてください。それが信号や温度ならESP32、映像ならRaspberry Piと、答えは自然に決まります。小さく1台から試すのが、遠回りに見えて一番の近道です。
- 電子工作の初心者が最初に触るならどちらですか?
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画面を見ながら学びたいならRaspberry Pi、現場への設置をゴールにするならESP32をおすすめします。ESP32は開発環境(Arduino IDEなど)の情報が豊富で、Lチカ(LEDの点滅)からセンサー読み取りまで段階的に進めます。
- Raspberry PiのSDカード破損は防げますか?
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読み取り専用化・高耐久SDカードの採用・正しいシャットダウン運用でかなり減らせますが、ゼロにはできません。壊れたときにSDカードの複製からすぐ復旧できるよう、設定済みの予備カードを作っておくのが実務的な対策です。
- ESP32でカメラや画像処理は使えませんか?
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カメラ付きのESP32(ESP32-CAM系)で撮影と画像の送信まではできます。ただし「映像から状態を判定する」ような重い処理はマイコンには荷が重いので、判定はクラウドや上位のRaspberry Pi側で行う構成が現実的です。




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